アイデンティティークライシスの原因と克服のカギ


アイデンティティークライシスの原因は、主に幼少期から学生時代の人間関係の中で心の交流、喜びや悲しみの分かち合いなどを十分に経験できなかったことにあります。
親子関係、友達関係を通して自分という人間の理解を深め、成長させる機会に恵まれなかったことで、アイデンティティーが確立できなかったのです。
したがって、アイデンティティークライシスの克服のカギは、人間関係を通して自分自身を見つめ直す機会を粘り強く継続して改めて自己理解と社会性を身につけるしかありません。
成就するのは茨の道となりますが、あきらめずに自分と向き合い続けるしかありません。
以下に詳しく解説しています。 

アイデンティティークライシスの原因

「あなたはどういう人間ですか?」

この問いにしっかりと答えられるでしょうか?
この問いにしっかりと答えた内容を「アイデンティティー」と呼びます。
このアイデンティティーというのは、実は自分一人で築けるものではないんです。
思春期・青年期(中学・高校・大学の年齢)に学校生活の中で先生や仲間を通して自分を見つめ直す。
こうした経験を経て築くことができます。

アイデンティティーは、思春期・青年期(中学・高校・大学の年齢)に学校生活の中で先生や仲間を通して自分を見つめ直すことで確立していくもの。

アイデンティティーを自己同一性と訳すので、自己という言葉から「一人で考える」「一人で築く」と誤解しがちですが、そうではありません。
人間関係の中で確立されていくものなんです。
だから、この時期の人間関係が十分に経験できない場合、アイデンティティーの獲得に苦労するケースがあります。

「アイデンティティークライシス」という言葉があります。
文字通り、アイデンティティーの危機です。
例えば転職を繰り返すとか、いつも人間関係が上手くいかないというケースでは、その人自身のアイデンティティーの獲得に失敗している場合があります。
また、引きこもりの人たちの多くに、このアイデンティティーの問題が見られます。
人と人との関係性を通して自分を見つめ直していく。
先生や仲間を映し鏡として自分を成長させていく。

アイデンティティークライシスと進路選択のつまづき

この経験が十分に出来ない場合、まず進学や就職といった「進路」でつまづきます。
自分はどんな仕事がしたいのか?
自分は何をしたいのか?どんな方面に興味があるのか?
こうしたテーマが全く頭に浮かばず戸惑います。
また、エントリーシートが書けず、深く悩んでしまうケースも、このアイデンティティーの問題が背景にある場合があります。
進路の選択に失敗すると、25歳、30歳過ぎ位でそのひずみがくることが多いです。

欧米の学生のアイデンティティーとエクスプローラー

そしてこのアイデンティティークライシスは、特に日本人に顕著に見られるとも言われています。
欧米やアジアの学生は、このアイデンティティーを築くことに積極的です。
自分は何者で、どんなことに興味があるのかを互いに活発に議論します。
自分は何を大切だと思うのか?
どんなことが正しい、間違っていると考えるのか?

日本ではどこかタブーとされるこんなコミュニケーションも活発に交わします。
セミナーや授業でも、積極的に手を挙げ、発言するといいます。
手が挙がらず、発言が少ない日本の学生とは対照的だと指摘する人もいます。
日本の学校や社会は、人間関係がこうした意味でも希薄になりました。
自分の意見を言う事そのものがはばかられ、人と違うことへの違和感が集団を覆います。
出る杭は打たれるという言葉がこんなに当てはまる社会もないかもしれません。
しかし、残念ながら出る杭もわかち合うくらいの風土がないと、アイデンティティーが育ちにくいという側面があるのも事実です。

リンダ・グラットンは学生から社会人になるまでのある時期を「エクスプローラー(探求者)」たれと説いています。
寿命が100年の時代を迎え、長い年月働く際には、本当に自分がやりたいこと、情熱がなければ厳しくなるというのです。

「自分は何をしたいのかわからない」

カウンセリングでよく出てくる訴えです。
その言葉の背景には「アイデンティティークライシス」が存在するケースがあります。
大人になってからでも取り戻せることもあるので、カウンセリングでは時間をかけて確かなアイデンティティーの確立に取り組んでいます。 

アイデンティティークライシスとうつ

うつになる人の中には、このアイデンティティークライシスが背景にある人もいます。
アイデンティティーとは「自分がどういう人間か」ということであり、「こういう人間である」と言語化できるほどに自分をよく知り、なおかつ成熟させることが必要です。
しかし、こうした部分が不十分となると、進路の選択でつまづきます。
自分がやりたい分野、やってみたい仕事が不明確なまま進路を選択しようとするため、仕事選びというより、知名度や待遇面で「会社選び」をしてしまいます。
そのため、仕事そのものに興味がもてずに意欲や情熱が薄く、仕事がなかなか覚えられなかったり、ちょっとした失敗で挫折感を募らせ、すぐに辞めてしまいます。

また、アイデンティティーが確立されていないと、人間関係でもつまづきます。
アイデンティティーは自己理解の深さがポイントですが、自分という人間に対する理解の浅さがそのまま他者とのコミュニケーションでの浅さ、荒さにつながります。
そのため、人間関係に上手く馴染めず、職場に適応できずに仕事を転々とすることになります。
仕事の挫折や人間関係の不適応から仕事が長続きせずに転職を振り返すと、だんだんと精神的に追い込まれていくことになります。
その結果、自信を失い、将来を悲観し、感情が不安定になり、否定的な思考が止められずに「うつ」状態に陥ったり、そのまま「うつ病」を発症するケースが出てきます。
もちろん、うつにはいろいろな原因が見られるわけですが、その原因の中にこうしたアイデンティティークライシスが根っこにあるケースもあるわけです。 

アイデンティティークライシスと引きこもり

引きこもりのケースにはかなりの割合でこのアイデンティティークライシスが見られます。
引きこもりというのは一言で言うと人間関係に絶望した状態であり、その結果社会に絶望した状態だといえます。
彼らが何に対して引きこもっているかというと、社会に対してであり、つまりは人間関係に対して心を閉ざしているわけです。

この場合も子供時代や学生時代に十分な心の交流を経験しないまま進路選択が必要な年齢になり、学生時代とは違った社会的な人間関係に適応できずに挫折します。
そして、人間関係そのものに絶望するために人間関係のない空間に引きこもるしかなくなるのです。
あるいは、幼少期の親子関係の中で自分の存在を否定されたり、両親や周囲から自分に関心をもってもらえなかったりした場合にもアイデンティティーが育たず、学生時代から人間関係が結べずに引きこもるケースもあります。
また、学生時代に「いじめ」によって心に深刻なダメージを追った場合にも人間関係を拒絶しますから、引きこもりになる場合もあります。
あるいは「発達障害」があるにも関わらず、十分なサポートや教育を受ける機会を得なかったことで、人間関係や集団行動に適応できずに心に深いダメージを追い、人間関係を敬遠して引きこもってしまうケースもあります。

アイデンティティークライシスの克服のカギ

アイデンティティーの基礎が確立するのは、年齢的にいって18歳前後です。
思春期から青年期(12~18歳くらい)にかけて、先生や仲間との関係を通して自己理解を深め、一人の人間としての成長も経験します。
今の時代、寿命が延びて今後は100歳まで生きる人が増えていくといわれているので、思春期から青年期も年齢的に20代前半まで伸びるかもしれません。
いずれにしてもこの時期までに一通りの人格形成が完了し、進路の選択が適切になされていくといわれています。

自分の強みや弱み、得意なことや苦手なこと、好きことや嫌いなこと、興味関心の強いこと、大切にしたいと思うことなどを理解し、こうした要素を判断材料としてどの進路を選択するかを吟味します。
人は上手くできないけど自分は普通に苦も無く出来ること、人が普通にやっているが自分がやると苦労し、苦手なこと。
こうした人との「適宜の比較」によって自分を客観的に捉えていることで自分の「能力・適正」を把握していきます。

また、自分は何が好きで、どんなことに興味を覚え、どういう行動に熱中できるか?
こうした自分のもつ興味・関心も把握していきます。
この時、人との「適宜の比較」ではなく、比較からなんでも観てしまい、比較に振り回されないことが肝心です。
人と比べてばかりいれば、自分の強みなど永久に見つけることができません。
人と比べてばかりいたら、自分の全てが弱みにしか見えなくなってしまいます。
比較はある時、自分を客観的に見るための一つの判断材料にすることで、優越感や劣等感を覚えるためにするものではないからです。

こうした自分の特性に対する理解は「経験」によって得られます。
人とのコミュニケーションだったり、人と一緒にいろいろな事をやっていく。
その過程で「自分はこんな人間なんだ」という実感や気づきが出てきます。
この実感や気づきが積み重なって、やがてアイデンティティーが出来上がります。

アイデンティティークライシスの克服には、この経験を粘り強く時間をかけてでも繰り返し、自分という人間を知り、その自分を上手く活用して人生を生きていくようにします。
そして「あなたはどういう人間ですか?」という問いに「私はこんな人間なんです」と自分の言葉で、気負いも迷いもなくクリアに「真実として」答えられるようになった時。
アイデンティティークライシスが克服できたといえるかもしれません。

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