転移・逆転移とカウンセリング




転移・逆転移という問題は、臨床の現場でカウンセラーが悩むことの一つですが、実際にはカウンセラー側の不適切な対応が引き起こしていることが多いと思われます。

「これは転移だ」などとクライエントに問題を押し付けるのではなく、カウンセラー側が先ず自分の対応について厳密に検討するべきです。

あのカール・R・ロジャーズは、そのことを指摘していました。

誤った学習やカウンセリング、独善的な姿勢におぼれないために、転移・逆転移をカウンセリングについて、 以下にわかりやすく解説します。 


<目次> 
転移・逆転移とカウンセリング 
カウンセラーとクライエントとの相性ってあるの? 


転移・逆転移とカウンセリング  

「転移・逆転移」について書いてみます。

この「転移・逆転移」という概念は、精神分析から出てきました。

フロイトが治療のプロセスの中で起こりうるものとして提起しました。

転移・逆転移に関する細かい話は、精神分析の専門家に譲ります。

今回問題にしたいのは、「転移・逆転移」の捉え方についてです。

先ず、カール・R・ロジャーズは「転移・逆転移」について否定的でした。

ロジャーズはセラピー(面接)を録音し、徹底的に研究した人物です。

その研究過程でロジャーズは、様々な発見をし、それまでにない画期的な心理療法の技術とあり方を示しました。

それが「来談者中心療法」であり、傾聴・共感的理解でした。

また「エンカウンターグループ」などのグループアプローチでした。

そのロジャーズが転移についても論文でふれています。

ロジャーズの主張はこうです。

ロジャーズは、あるセラピストが転移だと主張してきたある場面の面接記録を詳細に検討しました。

すると、その多くがセラピストの不適切な対応によって引き起こされているとわかりました。

つまりクライエントを感情的にさせるような言動や態度を取っていたというわけです。

あるいは浅はかな理解を示し、クライエントを失望させていた。

それによって動揺し、混乱し、感情的になったクライエントを見て「転移を起こしている」などとまことしやかにまとめた。

これは誤りであるというのです。

私は転移の存在を否定していません。

病理の深いクライエントは、転移を起こしやすいと思います。

人格障害や統合失調症などのケースでは、自己と他者、現実と妄想の境界があいまいな傾向があります。

だからカウンセラーの働きかけや存在そのものに対して、転移を起こしやすい要素はあると思っています。

しかし、セラピストの不適切で未熟な対応によって引き起こされたとすれば、それは「転移である」と片付けるのは、それこそ不適切です。

不適切というのは、更なる不適切を起こします。

自分のやったことの不適切さは、一番最初のところで気づきたいものです。

こちらの不適切で未熟な対応によってクライエントが感情的になった。

にもかかわらず「治療上起こる必然のプロセス」みたいに捉えたらそれこそ大変なことになります。

適切な(別の)対応であればそうした感情は起こらなかった。

もしそう言えるのなら、それは転移としてではなく、こちらの不適切さとして問題にすべきです。

逆転移も同様です。

カウンセラーの人格や臨床の未熟さ、経験不足から起こったことなら、それを「逆転移」とするのではなく、カウンセラーの「課題」とすべきです。

私は12年近くカウンセリングをしていますが、かつて一度だけ、自分が感情的になったことがありました。

ただしこれは「逆転移」とは捉えていません。

あくまでも自分自身の未熟さのなせる業でした。

12年近くのカウンセリングで、転移については、これまで一度もありませんでした。

クライエントが明らかに感情的な態度を露わにしたことは一度もありません。

ここはカウンセリングをする上で重要な話ですので、少し掘り下げます。

カウンセリングでは、カウンセラーとクライエントとの間に、ある種の人間関係が生まれます。

私は以前、別ののメルマガで、「人間関係は距離感がカギになる」と書いたことがあります。

この距離感はカウンセリングにおいても大変重要です。

カウンセラーとクライエントの間にも、一定の距離感を常に保つことが必要です。

この距離は遠くてもだめですが、近過ぎてもだめです。

遠いとセラピーは無機質なものになります。

機械的、事務的、血の通っていない会話に終始します。

逆に近過ぎるのも問題です。

近過ぎると慣れ合い、依存、真剣さや覚悟に欠ける関係となります。

どちらからも問題解決やクライエントの成長につながる成果は生まれません。

近いのですが、近過ぎない。

これがセラピーの関係性のポイントの一つ。

もう一つは、その距離感が常に保たれていることです。

カウンセリングでは、親友や家族にもしない話を打ち明けることがあります。

あるいはその家族や最も親しい人間に対する悩みを打ち明けることもあります。

この場合、カウンセラーとクライエントとの関係は、そうした親しい人間との関係性よりも、ある部分では「親密さ」が出てきます。

つまり、家族や愛する人よりもある部分は「近い関係性」が生じます。

それでいて、これ以上は近くならず、一定の距離を保つ。

そういう距離感で行うからこそ、踏み込んだ話、深い心理的接触をしつつも、慣れ合いや依存を生まないでしっかりと取り組めるのです。

また、カウンセラーとクライエントとの間に、恋愛感情が芽生える。

そういうケースが実際にあります。

しかし、私はこの恋愛化してしまう関係性を断固否定します。

恋愛関係になっては、もはやセラピーの関係性は失われます。

恋愛にセラピー効果がないとはいいません。

そうではなく「セラピーの関係性」が失われるということです。

通常とは違う近い関係性の中で取り組む。

それでいて、ある一定の距離感を決して失わない。

だからこそ、深い心理的問題の解決に向けて、共に歩むことができるのです。

何度もいいますが、転移の存在は否定していません。

ただ、不適切な対応や安易な関係性によって生じた「陽性転移」や「陰性転移」。

これは治療過程の必然ではなく、セラピストの未熟さ、至らなが生んだ結果であり、徹底的に検証・改善訓練の対象と見なすべきではないでしょうか。

養成塾では距離感を保ち、深い心理的な接触を可能とし、信頼関係を築き、問題解決に至る技術をマスターして頂きます。


カウンセラーとクライエントとの相性ってあるの? 

「カウンセラーとの相性ってありますか?」

先日行われた「エンカウンターグループ」の懇親会の席上でした。参加者の方から頂いた質問です。

確かにカウンセラーのHPやブログでも、「相性」という言葉が使われていたりしますね。

カウンセラーとの相性の問題もあるので、それを検討した上でカウンセリングを受けてほしいというもの。

懇親会で質問して下さった方は、カウンセリングを受けた経験があり、いろいろいきさつがあった上で、こうした質問を私にされたようでした。

私はこの質問に、はっきりとこうお答えしました。

「カウンセリングに相性を持ち込むのは適切ではないんですよ」

クライエントの方がそうおっしゃるのならともかく、カウンセラー自ら「相性が・・」というのは、いかがなものかと思います。

カウンセリングが上手くいかない。クライエントとの信頼関係(ラポール)が築けない。

もしそれを「相性が悪い、合わない」ということで片づけているとしたら、「プロ」として、ちょっと考えて頂きたいところです。

私の願いとしては、いえ、一人のカウンセラーとしては、プロは「相性」などといったレベルでやって頂きたくないのです。

クライエントの抱えている問題や状態によって、そのケースが「難しい」ということはあっても、相性が悪いから上手くできないというのは、カウンセラー側の言い訳です。

そもそも、ロジャーズや名だたる臨床家は「相性」などという概念を持ち込んではいません。

相性などというレベルを超えたところで、クライエントと関係を築く。相性が立ち入る隙(すき)のないしっかりした対応で、カウンセリングを行う。

そのために訓練や研修を受け、技量を磨き、自らの姿勢やスタンスを高めていく。

カウンセラーやセラピストの皆さんは、ぜひ「ここ」を目指して頂きたいと思います。 

  
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