人間関係の悩みを解決する技術(月刊『潮』2016年11月号)




こんにちは、鈴木です。

昨年の秋にインタビューを受け、掲載された記事を紹介させて頂きます。

【月刊「潮」2016年11月号掲載】

私は心理カウンセラーとして五〇〇〇件以上の相談にあたってきましたが、
中でも人間関係で悩む人は非常に多くいらっしゃいます。

そもそも、人間が何かに悩んでいる状態とは、
言い換えれば「感情的になっている状態」です。

イライラしたり、やりきれない気持ちになったり、
不安や恐怖心が生じて、感情が揺れ動いている。

そのため、視野が狭くなってしまい、
自分自身や周囲のことがよく見えなくなっているのです。

人間関係で悩んでいる人も、その多くは感情的になり、
自分や相手のことがよく見えなくなっています。

人間関係の悩みは多種多様ですが、突き詰めていけば
「自分のことをわかってもらえない」ということに行き着きます。

目の前の他人とコミュニケーションをとっていても、
相手のリアクションに違和感を覚えたり、
期待通りの反応がなかったりすると、人間は動揺してしまうものです。

「なぜそういう反応をするのかな」
「自分の言い方が悪かったのか?」
「そういえば、前からこの人は自分に対して冷たい対応だ」

等々、感情的になって悩みは深くなり、最終的に、
「私という人間のことをわかってもらえない」
と思いつめてしまうのです。

逆に言えば、「自分のことをわかってもらえた」という実感があったときは、
その人間関係が幸せを生む瞬間となるのです。

人間関係にはこの両極があり、人間の感情はその間を日々揺れ動くのです。

その中で感情をいかにコントロールするかが、
人間関係で悩まないための大きなポイントになってきます。

とはいえ、感情をコントロールするのは易しいことではありませんし、
一〇〇㌫コントロールすることは不可能です。

しかし、自分の感情に「気づく」ことは可能です。

「あー、腹が立つ」
「今、私は怒っているな」
「なぜこんなに腹が立つのだろう?」

と、現在の自分の感情がどういう状態で、
その感情がなぜ生まれたかを考えてみる。

たいていの場合「なぜ?」という理由の部分に、
自分の考え方の癖であったり、コミュニケーションの傾向、
さらにはこれまでの人生における経験などが影響を与えている場合があるのです。

例えば、年上の男性上司との人間関係にストレスを感じているとします。

自分では「あの上司がいつも不機嫌そうな顔をしているのは、
私のことを嫌っているからではないか」と思い込んでいる。

しかし、「なぜ自分はそう感じるのか」を突き詰めて考えていくと、

「昔から年上の男性が苦手だった」
「それは、幼い頃に父親から厳しく叱られたことから始まっている」

などというように、過去の経験が現在の感情に与える影響を自覚することができます。

すると、今まで自分がフィルターにかけて物事を見ていたことに気づき、
さらに視野を広げることができるのです。

視野を広げて見てみると、

「上司が不機嫌そうに見えたのは自分のことを嫌いだからではなく、
納期に追われるプレッシャーからだった」

などと、新たな発見により相手との接し方も変わっていくのです。

私たちが行っているカウンセリングも、いま述べたようなプロセスを
相談者とカウンセラーの対話の中で辿っているのです。

カウンセラーの存在は「鏡」のようなものであり、
最終的には対話の中で相談者ご自身が解決への道筋を見出されるのです。

感情をコントロールするというと非常に難しいことのようですが、
まずは自分の感情の状態に気づき、その感情が生まれた理由を考えてみる。

そうすることで、少なくとも日常的な人間関係のストレスを軽減する程度には、
感情をコントロールすることができるはずです。

人間関係において、言葉は非常に重要です。

しかし私たちは、ともすれば「何を言うか」にだけ関心が向きがちですが、
実はもっと重要なのは「誰が言うか」なのです。

同じ内容でも、誰が言うかによって受け止め方が違うのが人間です。

子どもに野球の指導をするとしても、プロ野球選手から教わるのと、
野球経験がない近所のおじさんから言われるのとでは、
同じ内容でも受け止め方は一八〇度違うでしょう。

ただ、「誰が言うか」と同じように大事なのは、
その人との「普段からの関係性」です。

先の例で言えば、たとえ野球経験がなかったとしても、
その子の野球の上達を真剣に願っている
父親から言われた言葉であれば、子どもは重く受け取るでしょう。

さらに、「どう言うか」も重要です。

上司が部下のもってきた企画を却下するとします。

それも、ただ単に「こんな企画じゃだめだ」と跳ね返すのか、

「今回はだめだったけど、この点はよかったと思う。
もう少しここを直してみれば?」

と声をかけるのかで、部下の受け止め方や意欲の持ち方は違ってくるでしょう。

整理すると、言葉をかけるにも、「誰が言うか」
「普段からの関係性」「どう言うか」という段階があり、
最後に「何を言うか」が来るのです。

「何を言うか」と内容ばかり考えてしまいがちですが、
そこでいったん立ちどまり、「普段の関係性」や「どう言うか」を考えるだけで、
人間関係はかなり円滑になるはずです。

とはいえ、人間関係において言葉が重要なことは言うまでもありません。

コミュニケーションの具体的な問題として、ほとんどの人が
「相手の言うことを正確に受け取っていない」ということが挙げられます。

私は「臨床カウンセラー養成塾」というプロ向けの研修を行っていますが、
そこで傾聴トレーニングというものを行います。

一五分程度、相手の話を真剣に聞き、その模様を録音するのです。

対話が終わって内容を聞き直してチェックすると、
ほとんどの人が正確に聞いていないことがわかるのです。

プロでもそうですから、特に訓練を受けていない人が
相手の言うことを正確に聞けないのは当然かもしれません。

「一言一句」とよく言いますが、カウンセリングの現場では
「一言半句」も聞き逃さないという集中力で臨みます。

相手の言葉を「どう聞くか」「どう受け止めるか」そして「どう言葉を返すのか」。

この三つが対話の生命線ですが、とりわけ重要なのが
「どう聞くか」です。

正確に聞けないと「どう受け止めるか」
「どう言葉を返すか」もわからなくなるからです。

まずこちらが話を正確に聞き、相手の言いたいことをしっかりと受け止める。

このことを意識するだけで、コミュニケーションの質は
かなり向上し、人間関係の改善にも役立つでしょう。

 現代人が抱えるストレスの多くが人間関係に起因するというのは、
私も日々のカウンセリングから実感しています。

なぜかというと、相手がある問題なので、
自分の努力だけでは解決できないからです。

 自分がどれだけ視野を広げ、コミュニケーションに気を配ったとしても、
相手が心を開いてくれない場合は往々にしてあります。

その場合は、「問題は自分だけではなく、相手の側にもある」
と考えなければいけません。

相手が、他者に心が開けなくなるような経験をしている場合は、
周囲ができることは限られてくるのが現実です。

たとえば職場であれば、そうした方が少しでも心の負担を軽くできるように、
チーム全体のデザインを検討するなどの対応が必要でしょう。

誰もがカウンセラーの役割をできるわけではありませんので、
個人対個人ではなく、全体でその人を包括し、
誰か一人に負担がかからないようにする組織づくりが求められます。

さて、この数年、人間関係で悩んで
私の元にカウンセリングにこられる人の七割から八割が、
過去にいじめの被害を受けています。

私にスクールカウンセラーの経験があるから、
そのような方が多く訪れるのかもしれません。

それにしても非常に多い割合です。

いじめによる心の傷を、一〇年、二〇年といった
長い年月ずっと抱えてきたのです。

いじめを受けると、自尊心が深く傷つきます。

そのためどうしても自分に自信がもてず、
仕事や物事に消極的になってしまうことが多くなります。

人間関係においても、他者に心を開くことができなくなって、
周囲とうまく関係を築けなくなる人もいます。

一方で、カウンセリング等によって
過去のいじめ経験を乗り越える人もいらっしゃいます。

中には「いじめられた自分はダメな人間だ」と、
自分を責めてしまう人もいます。

しかし、いたずらに自分を責めるのではなく
「いじめはいじめる側の問題だ」と捉え直せると、
自尊心が回復し、過去の経験を乗り越えることができます。

そうやってカウンセリングを卒業される方が最後におっしゃるのは、
「苦しかったけど、乗り越えるという経験は自分にとって必要だった」という言葉です。

私はそういう方を何人も見てきましたが、いかなる悩みであっても、
受け止め方によって自分の糧にできるということを、みなさんの姿から学びました。

人間関係の原則は、「人は自分自身に最も興味・関心がある」ということ。

そして「人の心を変えることはできない。

変えられるのは自分自身」ということです。

その現実を嘆くのではなく、前提として理解した上で工夫していけば、
「これで限界だ」と思っていた人間関係にも、
まだまだ改善できる点が出てくるはずです。

一対一の関係でうまくいかなくても、少し視野を広げて
五人、一〇人といった組織の枠組みの中で人間関係を改善することも可能です
(これをグループアプローチといいます)。

最初に述べたように、悩んでいるとき、人間の視野は狭くなります。

狭くなっている視野を広げてみることで、自分の心も楽になり、
やっかいな人間関係がスムーズになる可能性は大いにあるといえるでしょう。

~以上 月刊「潮」2016年11月号より~

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